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東京高等裁判所 平成5年(ネ)1370号 判決 1993年8月23日

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告伊藤、同佐久間博夫、同尾崎、同塩川、同千葉、同湯浅及び同佐久間貞夫は、一審原告らに対し、別紙物件目録記載二の建物を収去して同目録一記載の土地を明け渡せ。

2  一審被告王子インベスメントは、一審原告らに対し、別紙工作物目録一記載の工作物を収去して、同目録二記載の土地を明け渡せ。

3  一審被告王子インベスメントは、別紙物件目録一記載の土地に立ち入つてはならない。

二  一審被告王子インベスメントの控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、一審被告王子インベスメントの控訴にかかる控訴費用を除き、第一、二審を通じて一審被告らの負担とし、一審被告王子インベスメントの控訴にかかる控訴費用は一審被告王子インベスメントの負担とする。

理由

一  《証拠略》(以下の事実については一審原告らと一審被告伊藤らとの間で争いがないという事実)によると、亡六義は、本件土地を所有していたこと、亡六義は、昭和四三年一二月三一日、亡林治に対し、本件土地を左記約定で貸し渡したこと、本件賃借権は、昭和六三年一二月三〇日、法定更新されたこと、亡林治は、本件土地上に本件建物を所有していたが、昭和六一年四月一〇日死亡し、一審被告伊藤らが、本件賃借権及び本件建物を各七分の一の持分割合で共同相続したことが認められる。

(一)  期間 昭和四三年一二月三一日から二〇年間

(二)  賃料 月額二九六〇円

(三)  目的 普通建物所有

(四)  特約 賃借人が本件土地を第三者に転貸し又は借地権を譲渡したときは、賃貸人は何らの催告を要せず賃貸借契約を解除できる。

二  一審原告らは、一審被告伊藤らが、一審被告王子インベスメントに対し、本件賃借権を無断譲渡した旨主張するので、この点について判断するに、以下のとおり、本件全証拠によるも本件無断譲渡の事実を認めることはできない。よつて、一審原告らの本件賃貸借契約の解除に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

1  一審被告伊藤らが、平成二年一二月二六日頃、一審被告王子インベスメントに対し、東側土地及び東側建物を売却したこと、東側建物の一部である本件外階段が本件土地上に設置されていること、本件外階段が未だに撤去されていないこと、一審被告王子インベスメントは、南側土地を買い受け、本件土地との境界線上にあつたブロック塀を取り壊し、本件土地の西側公道への出入口に所在する扉に自社の出入口である旨の掲示板を取り付けたこと、ブロック塀はその後再建されたが、本件土地と南側土地との間が自由に通行可能な状態になつていることが認められ(《証拠略》なお、一審被告伊藤らは、一審被告王子インベスメントに対し、東側土地及び東側土地上に所在する東側建物を譲渡したこと、本件外階段は、本件土地上に設置されているところ、未だに撤去されていないことは、一審原告と一審被告ら全員との間で争いがなく、一審被告王子インベスメントが本件土地の南側に接して所在する南側土地を買い受けたこと、本件土地の西側公道への出入口に所在する扉に自社の出入口である旨の掲示板を取り付けたことは、一審原告と一審被告佐久間貞夫及び一審被告王子インベスメントとの間で争いがなく、南側土地と本件土地との境界線上にあつたブロック塀を取り壊したことは、一審原告と一審被告佐久間貞夫との間で争いがない。)、これによると、一審被告王子インベスメントは、一審被告伊藤らから、東側土地と共に本件賃借権を買い受けたと考える余地が存する。

2  しかし、一審被告らが本件賃借権の譲渡をいずれも否認し、かつ、譲受人一審被告王子インベスメント譲渡人一審被告佐久間博夫を各名義人とする北区長あての平成二年一二月一七日付け土地売買等届書、北区長の平成二年一二月二一日付け不勧告通知書、本件売買契約に関する重要事項説明書及び一審被告伊藤らと一審被告王子インベスメントとの間の平成二年一二月二六日付け土地付建物売買契約書など本件売買契約に関し作成された書面は、いずれも売買対象物件を東側土地及び東側建物であるとしているうえ、本件売買契約に当たつて一審被告王子インベスメントに売買資金を融資した訴外王子信用金庫落合支店が、売買の目的物件を東側土地及び東側建物であるとの前提で東側土地の売買代金及び建物改装資金相当額を融資したこと、一審被告伊藤らが本件賃借権について借地法(大正一〇年法律第四九号)八条の二による条件変更許可の申立てをしており、一審被告伊藤らにおいてここに居住する意思を示していること、一審被告伊藤らは、条件変更許可後に耐火性建物を建築する積もりで本件建物に居住しておらず、本件外階段の存在が本件土地の利用にとつて障害とならなかつたことから、その取り壊しを求めなかつたもので、一審被告王子インベスメントが本件土地上に何らかの権利を有することを認めたものではないことを考慮すると、右1で認定した事実のみをもつて、一審被告伊藤らが一審被告王子インベスメントに対し本件賃借権を譲渡したことを認めることはできない。

3  一審原告らは、本件賃借権が一審被告王子インベスメントに譲渡されたのでないとすれば、東側土地及び南側土地とも建築基準法に定める接道義務を満たさず建物の敷地とすることができないことになるから、王子インベスメントがこれらの土地を買い受けるはずはない旨主張するが、南側土地については平成二年一二月一八日付けで同土地のみを敷地とする建築確認がされており、東側土地についても亡六義と亡林治の間で北側公道へ通じる幅一・八メートルの私道を開設する合意ができていて、今後の折衝如何によつては私道の幅を拡張するなどして建築確認を受けることも考えられない訳ではないことを考慮すると、一審被告王子インベスメントが本件賃借権の譲渡を受けることなく東側土地のみを買い受けたとしても不自然ではないから、一審原告らの右主張は採用しない。

そして、他に一審被告伊藤らが一審被告王子インベスメントに対し本件賃借権を譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。

三  一審原告らは、本件建物が朽廃した旨主張するのでこの点について判断する。《証拠略》によると、以下の事実を認めることができる。

1  本件建物は、昭和二〇年代の中頃に建築され、建築後約四〇年を経過した木造の平屋建居宅であり、現在までに部分的に補修・修理がされた形跡はあるものの、土台・柱などの構造部材については修理が行われていない建物である。主たる屋根はセメント瓦葺きであり、外壁は下見板張り一部プラスター塗りとなつている。本件建物の平面は四畳半及び四畳の各和室、二畳の台所、便所及び廊下となつており、更に、玄関脇に約一畳の物置、台所回りに生子板葺きの下家が増設されている。四畳の和室は、もと六畳の和室の一部が解体撤去されて四畳になつたもので、撤去部分の外壁は生子鉄板の壁となつており、内壁の仕上げは行われておらず、屋根も撤去したままで、雨仕舞いに対して特別な配慮はされていない。

2  本件建物の外観は、正面(南側)から見ると、向かつて右側(東側)が沈んで傾斜している。これを四畳半の和室の敷居で実測すると、南東の角の柱が約五センチメートル沈んでおり、また、四畳半の和室の南西の角の柱及び四畳の和室の南東の角の柱が約四センチメートル東側に傾き、南北方向にも軽微な傾斜が存するうえ、柱の沈みなどの影響により屋根の棟が変形している。

3  本件建物の基礎は立方体のコンクリート製であり、多少の不同沈下が存する。このコンクリート製基礎の上に角材の土台を乗せ、その上に柱を立てているが、外回りの土台の中には、土に接している部分があり、これが腐食しているほか、他の土台も取り替え時期に来ている。柱は、全般的には損傷の程度は大きくないものの、腐食している部分があり、特に四畳の和室の東側の柱は外部に露出して雨ざらしの状態になつているため朽廃が進んでいる。内部の床組みはコンクリート基礎の上に束を立てて大引きを架け、根太を渡して荒床板を張つたものであり、比較的損傷は少ないが、床下の束は傾いたものがあり、床束、大引き及び根太の一部は朽廃している。

4  本件建物の主屋根は、北側が生子鉄板張りとなつており、南側がセメント瓦葺きになつているが、全般的にセメント瓦の劣化が著しく、厚さが薄くなり、割れやずれなどが見られ、屋根瓦としての機能は限界にきていて、雨漏りが発生している。

5  外壁の下見板は、地盤に近い部分が劣化して腐食が見られ、北側では一部が外れて内部の小舞壁が見えている。

6  本件建物内部は耐用年数の経過による通常の劣化が見られ、一部を解体撤去した四畳の和室では畳に損傷が発生している。また、四畳の和室及び南側玄関回りの内壁は、雨漏りにより汚れ、また、一部剥落しており、廊下及び玄関の天井は、雨漏りにより汚れ、一部腐食している。建具は、一部開閉不良の窓があるほか、一部朽廃したものが存する。

7  流し台、ガスコンロ、照明器具及び外部からの引込線は撤去されており、給水管、ガスカランの継手及び電線は経年による劣化が発生している。

8  本件建物は、無人のまま長年放置されていたことから保守管理が不十分であり、右1ないし7のような状況で建築年数に比べて全体的に部材の劣化が激しく、これを使用するためには、早期に、<1>基礎の補修及び土台の全面取り替えによつて建物の傾斜を直し、<2>柱の一部を根継ぎし、<3>屋根瓦を全部取り替え、<4>四畳の和室の東側壁を新設し、<5>下見板を補修し、<6>電気、ガス、給排水設備を全面的に取り替えるなどの補修を行うことが必要である。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実、ことに本件建物が建築後約四〇年という長期間を経過した建物であり、全体的に経年による劣化が進んでいるほか、無人のまま長年放置され、更に、もと六畳の和室の一部を解体撤去して四畳の和室にした際の補修が十分されないなど保守管理が不十分であつたことから、基礎、土台、柱及び屋根といつた本件建物の構造部分にほぼ全面的な補修を行わなければ使用できない状況に至つていることを考慮すると、その補修には新築同様の費用が必要であると推認されるのであつて、本件建物は、遅くとも当審における口頭弁論終結時(平成五年六月三〇日)までには、すでに建物としての社会的、経済的効用を失うに至り、朽廃したと認められる。本件賃借権は、前記一のとおり、昭和四三年一二月三一日に設定され、昭和六三年一二月三〇日法定更新されたと認められるので、本件建物朽廃により平成五年六月三〇日までには消滅したと認められる。

四  《証拠略》によると、一審被告王子インベスメントが、本件売買契約により、東側建物と共にこれの西側に附設されている本件外階段を買い受けたこと、本件外階段は、本件土地のうちの本件外階段の敷地に設置されていること、本件土地と一審被告王子インベスメント所有の南側土地との間にはブロック塀が設置されているが、かなり広い幅の開口部があつて自由に行き来することが可能であり、一審被告王子インベスメントは、東側建物まで行くため、右開口部から本件土地に立ち入ることがあること、以上の事実が認められる(なお、本件外階段は、本件土地のうちの本件外階段の敷地に設置されていることは、各当事者間に争いがない。)。

一審被告王子インベスメントは、「本件売買契約においては、東側建物に設置されている本件外階段は、売買の目的から除外されていた。」旨の右認定に反する主張をするが、本件外階段は、東側建物の一部であるところ、本件売買契約締結の際交わされた売買契約書には、本件外階段を売買目的物から除外する旨の記載がなく、右売買契約書上は東側建物とこれに付加して一体となつた本件外階段を合わせて売買の目的としていると認められることから、一審被告王子インベスメントの右主張は採用しない。

五  亡六義は、平成四年八月五日死亡し、一審原告らが本件土地を共同相続したことは、一審被告らが明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

以上の次第で、一審原告らの一審被告伊藤らに対する予備的請求及び一審被告王子インベスメントに対する請求はいずれも理由があり、一審原告らの一審被告伊藤らに対する主位的請求は理由がない。

六  よつて、一審原告らの控訴に基づき、右と結論を異にする原判決を主文のとおり変更し(なお、主文一2については、一審原告らの控訴がなく、一審被告王子インベスメントのみ控訴しているところ、同被告の控訴は右のとおり理由がないから、この部分は変更の対象にならないが、本判決の主文に記載されていないことからこの部分の請求が棄却されていると解されるおそれがあるので、念のため記載する。)、一審被告王子インベスメントの控訴は理由がないから棄却し、民事訴訟法三八六条、三八四条、九六条、九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田 潤 裁判官 瀬戸正義 裁判官 小林 正)

《当事者》

平成五年(ネ)第一三七〇号控訴人・同年(ネ)第一四九九号

被控訴人 王子インベスメント株式会社

右代表者代表取締役 荘村輝雄 (以下「一審被告王子インベスメント」という。)

平成五年(ネ)第一三七〇号被控訴人・同年(ネ)第一四九九号控訴人 高木れい (以下「一審原告高木れい」という。) <ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 中本源太郎

平成五年(ネ)第一四九九号被控訴人 伊藤節子 (以下「一審被告伊藤」という。) <ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 長嶋和雄

平成五年(ネ)第一四九九号被控訴人 佐久間貞夫 (以下「一審被告佐久間貞夫」という。)

右訴訟代理人弁護士 安藤朝規

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